「塾意味あるのか論争」は昔から存在していましたが、最近になって「塾は意味ないのでは?」という声を聞く機会が増えてきたように感じています。
その背景には、オンラインを含めた教育サービスが多数登場し「塾以外の選択肢」が増えたこと、あるいはインターネットの普及によりさまざまな情報を得られるようになったことなどがあげられます。
いずれにせよ、教育を取り巻く環境が日々変化していくこれからの時代では、塾の意味についてはこれまで以上に一歩踏み込んだ考察が必要です。
そこでこの記事では、教育業界で10年以上に渡って活動をしてきている現役講師の筆者が、現場目線で「塾に通う意味があるのか」について解説していきます。
現役のオンライン家庭教師として毎日、世界中の子どもたちに勉強を教えています。現役講師だからこそ伝えられる、正確な情報をわかりやすくお伝えします!
塾に通う意味はケースバイケース!実態を知っていこう
まず大切な結論からですが、「塾に通う意味はケースバイケース」だと言えます。
つまり「人それぞれ」ということで、身も蓋もない結論になってしまって申し訳ありません。
しかし、世の中には本当に生徒や保護者のことを考え、真摯に運営している塾も存在するため、無責任に「塾に通う意味はありません」とは言うことはできません。
一方で、それと同時に「通わせる意味がない塾」「塾が合わない子」が存在するのも事実です。
以下では、両者について現役講師の本音をお届けしていきます。
通わせる意味がない塾の特徴
まずは「通わせる意味がない塾の特徴」から深掘りしていきましょう。
ここで取り上げるのは以下の3つです。
- 成績が上がらない
- 家庭学習のサポートがない
- 挨拶や清掃が行き届いていない
それぞれ順番に解説していきます。
成績が上がらない
塾の存在意義として色々なものが語られますが、どれだけ立派なことを語ろうとも「成績が上がらない塾」には通わせる意味がないどころか、存在意義すら問われて然るべきです。
たった数週間や数カ月で成績は上げられませんが、もし半年から1年以上塾に在籍していて成績が上がらない場合には、「塾に通う意味がない」と結論づけても問題ないでしょう。
では、なぜ塾に通っていても成績が上がらないのでしょうか?その3つの理由を以下にまとめてみました。
指導スタイル | ・集団や「1対複数」に要注意 →マンツーマン指導が正解 |
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教材 | ・教材固定には要注意 →それぞれにあった教材を使うのが理想 |
講師の質 | ・「バイト感覚」に要注意 →近くに優秀な大学があると安心? |
それぞれ、納得できる部分もあると思います。成績を上げるための最適解は「マンツーマン」「最適な教材」「質の高い講師」の3点です。
これが十分に提供できていない塾に通っていて成績が上がらないなら、その塾に通う意味はないと言えるでしょう。
家庭学習のサポートがない
意味のない塾の特徴の1つに「家庭学習のサポートがない」ことがあげられます。
塾を利用している生徒、保護者の多くは、「塾で授業を受けていれば成績が上がる」と考えていますが、実はこれは誤り。なぜなら、塾の授業では「わからない問題がわかる」状態になるだけで、その先の「わからない問題ができるようになる」という定着までは持っていけないからです。
だからこそ、この「定着」まで持っていけるよう、家庭学習や自習という形で復習が必要になるため、家庭学習のサポートが十分にできていない塾は「成績が上がらない塾」だと断定できます。
効果的な家庭学習のサポートには、以下の点があげられます。
自習室 | ・授業が無い日も自由に使える ・見守り用の講師がいれば理想的 |
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宿題 | ・次の授業までの復習目的 ・ページや問題を具体的に指示 |
声かけ | ・自習の重要性を何度も伝える ・自習室の利用を推奨する |
このようなサポートが得られる塾は「成績を上げるのに最適」です。
一方で、「授業だけをしていれば良い」と考える教室長、講師も存在するため、残念ながらそのような塾には通う意味がありません。「家庭学習、自習のサポートをして欲しい」と伝え、思うような対応をしてもらえなかったらすぐに辞めることをおすすめします。
挨拶や清掃が行き届いていない
通う意味のある質の高い塾では、挨拶や清掃など、「サービス業として欠かせないこと」が徹底されています。
筆者が以前勤めていた塾は、周囲に塾が乱立する競争率の高い場所に位置していながら、筆者が在籍していたたった数年の期間で生徒数が3倍以上に増えました。
このような結果が生まれた背景にはさまざまなものがありますが、振り返ってみれば「挨拶や清掃が行き届いていた」と感じています。
生徒や保護者が塾に入ってくれば、飲食店顔負けの「こんにちは!」という気持ちの良い挨拶があり、授業スペースはもちろん、トイレや窓のサッシなど、普通だったらこだわらないところまで綺麗にする。
こういったことを、社員の教室長だけでなく、それぞれの講師が理解し、実行していたことが、お客さまの目から見て「信頼できる塾」という評価を得られたのだと思います。
逆に言えば、挨拶や清掃などの「サービス業」としての側面に力を入れていない塾は、以下のように考えている可能性が高いです。
- 授業だけしていればいいや
- 何もしなくてもお客さまは増えていくでしょ
- とりあえずお金だけもらえていればいいや
YouTubeで無料で質の高い解説動画が見られる今の時代に、「授業だけ」しかお客さまに価値を提供できない塾は存在意義がありません。
また、オンライン教育が普及し、「全国から塾や家庭教師を選べる時代」になった今、何もしなかったら衰退していくだけ。お客さまはどんどん減っていくでしょう。
加えて、塾を含めた教育業は「お金だけもらえれば良い」という甘い意識で務まるほど、簡単なものではありません。
このような塾には、通う意味はもちろん、存在意義すら与えられるべきではないでしょう。これを見極める1つの材料として「挨拶や清掃の徹底」に注目してみてください。
「塾が合わない子」の特徴
「塾に通う意味」について考える時には、塾だけでなく「通う子ども」についても考える必要があります。子どもはひとりひとり違う人間なので、どんな塾が合うのか、あるいは「そもそも塾が合っているのか」といった塾との相性が存在するからです。
- 自分ひとりでできてしまう
- 集団や個別指導ではケアしきれない
- 友達を作ってしまう、流されてしまう
以上3つの点について、順番にチェックしていきましょう。
自分ひとりでできる、こだわりがある
筆者は学生時代、大学院進学まで生涯独学を貫きましたが、「塾は自分には合わないな」と常々考えていました。
これは、「自分ひとりでできる」というよりも、「自分のペースを乱されたくない」という「こだわり(自我の強さ)」が大きな要因で、このように考えている子どもには、塾が合わない可能性が高いです。
実際、塾で講師をやっていた時にも、自我が強い子に対して「この子は塾に来るより自分で勉強をした方が良い」と感じていました。指導者が子どもの個性を押さえつけているように思えてならないのです。
具体的には、以下のような子が該当します。
- ひとりで出来てしまうので教えることがない
- こだわりが強く他者が介入する余地がない
- 他人から指示されることを嫌う
このような子には、「独学」か、あるいは通信教育や教育アプリなど、「干渉されない」「指示されない」タイプの教育サービスの利用がおすすめです。
集団や個別指導ではケアしきれない
自己管理ができていたり、自我が強い子もいれば、「ひとりではできない子」「自分を持っていない子」も同時に存在します。
これはどちらが良いか、悪いかではなく、「個性」のお話です。このような子には、一般的な学習塾のような集団授業、あるいは1対複数の個別指導は意味をなさない可能性が極めて高いです。
このような子の特徴を以下にまとめてみました。
- 塾では対応しきれない学力水準
- 意欲がない
- 他人から指示されないと動けない
このような子の場合は、完全マンツーマンで指導してもらえる完全個別指導の塾や家庭教師がおすすめです。
つきっきりて指導してもらうことで、学力や意識が低くても、また他人から指示されないと動けなくても、二人三脚で手厚いサポートを受けられます。
そして、少しずつ勉強に自信をつけていき、やがて高い意欲で、自分から行動に移せるような人間へと成長していくのが理想的です。
友達を作ってしまう、流されてしまう
塾で働いていると、大人が驚いてしまうほど、驚異的な対人スキルで友達を作っていく子がいます。このような生徒は必ず塾に1人は存在し、そして同時に、必ず「流されてしまう」子も存在します。
そして、やがてこの子を中心としたコミュニティが出来上がり、「塾に遊びにくる子たち」が生まれてしまうのです。
もちろん、指導者目線に立つと、子どもたちが元気に、楽しく塾に通ってくれることはとても嬉しいです。しかし、それと同時に「頑張って勉強している子たちの妨げになってはいけない」のも事実であり、塾の存在意義から考えると、後者の方が優先されるべきことは明らかです。
したがって、しっかりした塾では、このような子たちへの指導も行き届いていますが、残念ながら、このような子たちが野放しにされ「無法地帯」と化している塾も存在します。なんなら、年齢が近い学生講師までもがそのコミュニティに引き込まれ、「何をするための場所なのか」に理解に苦しむような塾まで存在するくらいです。
少し話が脱線しましたが、対人スキルが非常に高く、自分から積極的に友達を作り、怠けてしまう子や、そういった子に流されて怠けてしまう子には、塾はあまりおすすめできません。
周りに誰もいない環境で指導を受けられる、家庭教師の利用を強くおすすめします。
- 通う意味のある塾の特徴は「成績/家庭学習/清掃と挨拶」
- 何でも自分でできる子や自我が強い子は塾に向いていない
- 塾の代替として家庭教師や通信教育、教育アプリの検討を
「塾以外の選択肢」も検討しよう
塾に通う意味があるのかについて不安がある方は、「塾以外の選択肢」について検討することも大切です。
ここでは、以下の3つの有力な選択肢について解説していきます。
- 家庭教師
- 通信教育
- 教育系アプリ
これらを「わかりやすさ」「続けやすさ」「コスパ」の3点で比較していくので、参考にしてみてください。
家庭教師
まずは塾と何かと比較されやすい「家庭教師」について解説していきます。
家庭教師はその名の通り、家庭で「完全マンツーマンで授業を受けられる」点が塾との最大の違いです。従来は「訪問型家庭教師」という形が主流でしたが、現在は「オンライン家庭教師」というスタイルも増えてきており、今後はオンラインへの移行が進むと見られています。
そんな家庭教師の3つの特徴を以下にまとめてみました。
わかりやすさ |
・完全マンツーマンでわかりやすい ・指導計画や家庭学習の指示も |
---|---|
続けやすさ |
・二人三脚で続けやすい ・進級、進学後に継続することも |
コスパ |
・塾よりも割高 ・料金がネックになる場合も |
ご覧のように、「わかりやすさ」「続けやすさ」といった点は、塾をはじめとした他の教育サービスとは比べ物にならないほど優れています。
一方で、「完全マンツーマン」という形で講師を授業時間中ずっと「独占」するため、その分だけ料金はお高めです。しかし、指導の質が塾よりも圧倒的に高いため、たとえ塾よりも割高になったとしても家庭教師を利用する価値は大いにあると言えるでしょう。
家庭教師をおすすめできるのは?
以上を踏まえて、家庭教師をおすすめできるのはこんな方です。
- マンツーマン指導で手厚く指導して欲しい
- 家庭学習の計画、立案もして欲しい
- 多少割高でも質を優先したい
基本的には、塾では思うように成績が伸びなかった分、「指導の質にこだわりたい方」におすすめできるのが家庭教師だと言えるでしょう。
あらゆる教育サービスの中でも、最も質にこだわっているのが家庭教師なので、一度利用してみる価値は大いにありますよ。
通信教育
「進研ゼミ」に代表される、昔ながらの通信教育も塾以外の選択肢として検討の余地があります。
筆者が学生時代も、頻繁にポストの中にダイレクトメールによる勧誘が入っていて、その中に入っていた漫画を読むのが好きでした。結局、中学生から高校生にかけて1年ほどやっていたのですが、結局続かずに辞めてしまった思い出があります…
そんな通信教育の3つの特徴についてまとめてみました。
わかりやすさ |
・様々な工夫を用意 ・直接教わる方がわかりやすい |
---|---|
続けやすさ |
・自己管理が必須 ・筆者は続かなかった |
コスパ |
・塾、家庭教師より良い ・教育アプリの方が優れる |
ご覧のように、わかりやすさ、続けやすさ、コスパ、いずれも「悪くはないが、特段良くもない」といったイメージです。
通信教育が本気で続けられて、成績までしっかり上がればそれに越したことはないですが、全ての子に適しているかと言えば、決してそうではないことは読者の皆さんも理解できるはずです。
通信教育をおすすめできるのは?
以上を踏まえて、通信教育をおすすめできるのはこんな人です。
- 1人でコツコツ勉強できる
- スケジュールを立てて取り組める
- 月に1万円程度の出費が可能
通信教育は、基本的に1人でテキストや電子テキストを使って勉強を進めていくため、「自主性」が必要不可欠です。
良くも悪くもテキストに依存するため、「わからないところをそのままにしやすい」というデメリットも気になります。もし利用する場合は、その子に合っているのかを見極めた上で、慎重に学習を進めていくのが大切だと言えるでしょう。
教育系アプリ
最後に紹介するのが「教育系アプリ」です。近年、インターネットの普及により爆発的に普及してきている教育サービスで、「スタディサプリ」が代表格。
テレビCMやWeb広告でも大々的に宣伝しているため、知っている方、気になっている方も多いはずです。特徴を以下にまとめました。
わかりやすさ |
・動画視聴がメイン ・講師や動画の質に依存する |
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続けやすさ |
・自己管理が必須 ・「見るだけ」で続けやすい |
コスパ |
・圧倒的に高コスパ ・塾などの補助にもアリ |
教育系アプリは、とにかく「コスパ」に優れています。スタディサプリを例にとると、「2,178円」でサービス内の全てのコンテンツを使えるようになります。
つまり、もし中学生がスタディサプリを利用しても、小学生向けのコンテンツで復習が可能ですし、高校生向けのコンテンツで予習も可能に。小学生から高校生までの12年間の学習内容が全てオープンになるため、これほどコスパが高い教育サービスは他に存在し得ません。
そして、コスパが良いことは「制限なく使いやすい」「続けやすい」といったメリットも生み出します。料金的に見れば、塾や家庭教師などの補助に使うことも可能です。
教育系アプリをおすすめできるのは?
以上より、教育系アプリをおすすめできるのはこんな方です。
- 動画メインで「気軽に」勉強したい
- 5教科、小学生〜高校生まで1つで済ませたい
- 塾や家庭教師の補助を用意してあげたい
教育系アプリは「動画がメイン」になるため、この点を不安に感じる方は多いはずです。
確かに、現役の家庭教師から見ても、動画だけ見ていても成績が上がりにくいのは事実。しかし、「動画ほど今の子どもに身近なものはない」のもまた、事実ではないでしょうか?
今の子、というより、今の若い世代は、テレビはほとんど見ません。その代わり、YouTubeやSNS内で、大量の動画コンテンツを日々消費しています。
つまり、動画による学習は、「最も身近なもので勉強する機会を得られる」ことにつながるため、「勉強」というハードルを大きく下げられます。ノートと教科書を開くだけでも憂鬱になるものですが、スマホで動画を見るだけならそこまで憂鬱にはなりませんよね。
こういった観点から見ると、動画メインの学習には、これまでの教育とは違った側面のメリットが存在していることがわかります。「相性が良い子にはとことん良い」ので、お試しで一度利用をしてみるのも良いでしょう。
まとめ
塾に通う意味は「人それぞれ」です。通う塾や通う子どもによって大きく変わってきますが、多くの方は「とりあえずそのままで」と後回しにしてしまうもの。
しかし、子どもたちが学生でいられる時間は長いようで短く、また教育資金も無限に存在するわけではありません。時間、そしてお金という大切な資産を無駄にしないためにも、早め早めの対策を心がけましょう。
塾が合わないなら、塾を変えるか、家庭教師を利用するか、はたまた他の教育サービスを利用することも選択肢の1つです。子どもに合ったものを選んで、効果的な学習ができる環境を整えてあげましょう。